大阪地方裁判所 平成11年(ワ)3072号 判決
原告 柳生盛二
右訴訟代理人弁護士 吉田之計
被告 国
右代表者法務大臣 臼井日出男
右指定代理人 高橋伸幸
同 高橋晃
同 武甕太一郎
同 畑喜隆
同 中西新和
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 主位的請求
被告は、原告に対し、一〇二五万五九三九円及びこれに対する平成一一年六月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 予備的請求
被告は、原告に対し、一〇二五万五九三九円及びこれに対する平成一一年四月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、被告の職員は、原告が被告との間で締結していた簡易生命保険契約について、何らの権限のない、原告の元妻による解約通知及び解約還付金等の請求に応じて、原告の元妻に対し、解約還付金等として一〇九八万五九三九円を支払ったところ、主位的には、右の解約通知は無効であり、右の契約は右解約通知の後もなお有効に存続していたことを前提に、本件において右契約を解約するとして、被告に対し、右契約の解約還付金等として一〇二五万五九三九円及びこれに対する解約日の翌日である平成一一年六月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、予備的に、被告の職員は、解約通知及び解約還付金等の請求をしたのが本人であるかどうかを確認すべき義務を怠り、原告の元妻に対して解約還付金等として一〇九八万五九三九円を支払ったことにより、右同額の損害を被ったとして、被告に対し、民法七〇九条及び七一五条に基づき、右損害額のうち一〇二五万五九三九円及びこれに対する不法行為の後であり、訴状送達の日の翌日である平成四年四月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
これに対し、被告は、本案前の答弁として、原告の右各請求は、いずれも簡易生命保険の契約上の権利義務に関する事項についての民事訴訟に当たるにもかかわらず、原告は、簡易生命保険法八八条一項所定の簡易生命保険審査会の審査を経ていないから、本件訴えは不適法であると主張するほか、本案の抗弁として、被告の職員は、同法及び保険約款に定める手続によって解約還付金等を支払ったから、同法八三条の規定により、右支払は有効であると主張する。
一 争いのない事実
1 原告は、被告との間で、次のとおり、簡易生命保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
(一)(1) 保険証書記号番号
四一九三第三三四七八九四号
(2) 保険種類
五五歳支払開始据置一〇年定期年金保険
(3) 効力発生日
平成六年四月二二日
(4) 年金支払事由発生日
平成一〇年四月二二日
(5) 年金額
九〇万円
(6) 保険契約者
原告
(7) 被保険者
原告
(8) 受持郵便局
大阪府都島郵便局
(二)(1) 保険証書記号番号
四一三六第四四六〇七三七号
(2) 保険種類
五年型財形積立貯蓄保険
(3) 効力発生日
平成八年一一月一二日
(4) 保険金額
満期の場合 五一二万三五九〇円
死亡の場合 一〇二四万七一八〇円
(5) 保険契約者
原告
(6) 被保険者
原告
(7) 保険金受取人
満期の場合 原告
死亡の場合 柳生三好
(8) 受持郵便局
大阪府都島郵便局
(三)(1) 保険証書記号番号
四一九三第五三五七七六八号
(2) 保険種類
六〇歳支払開始据置五年定期年金保険
(3) 効力発生日
平成一〇年五月七日
(4) 年金支払事由発生日
平成一五年五月七日
(5) 年金額
九〇万円
(6) 保険契約者
原告
(7) 被保険者
原告
(8) 受持郵便局
大阪府都島郵便局
2(一) 被告の職員は、柳生三好から、平成一〇年三月三一日、右1(一)の契約の解約通知を受けて、同人に対し、右同日、右1(一)の契約の解約還付金等として七四九万一九六八円(解約還付金七六〇万七五二〇円及び剰余金四万二九三八円の合計額から、未払保険料一五万八四九〇円を控除した残額)を支払った。
(二) 被告の職員は、柳生三好から、平成一〇年一二月一五日、右1(二)の契約の解約通知を受けて、同人に対し、右同日、右1(二)の契約の解約還付金等として二〇三万七二〇三円(解約還付金二一一万二三五〇円及び剰余金七八五三円の合計額から、未払保険料八万三〇〇〇円を控除した残額)を支払った。
(三) 被告の職員は、柳生三好から、平成一〇年一二月一五日、右1(三)の契約の解約通知を受けて、同人に対し、右同日、右1(三)の契約の解約還付金等として四五万六七六八円(解約還付金五二万八一三八円から、未払保険料七万一三七〇円を控除した残額)を支払った。
3 原告は、被告に対し、平成一一年六月七日、本件口頭弁論期日において、前記1の各契約の解約通知をした。
右時点における解約還付金の金額は、一〇二五万五九三九円を下らない。
4 原告は、主位的請求及び予備的請求の双方について、簡易生命保険審査会の審査を経ていない。
二 主たる争点
原告の各請求に簡易生命保険法八八条一項が適用されるかどうか。
1 原告の主張
契約の効力についての判断は、裁判所の専権である。原告は、本訴において、本件保険契約についての前記一2の解約が無効であることの確認を求めているのであり、本件保険契約上の実体的権利関係の存否が問題となる場合において、簡易生命保険法八八条一項により、簡易生命保険審査会による審査の手続を経ることが訴訟要件であるとすると、契約の効力についての判断を同審査会がすることになり、国民の裁判を受ける権利を侵害する。
そうすると、同項にいう「簡易生命保険の契約上の権利義務に関する事項」とは、契約手続上の瑕疵の存否に関する事項を意味し、実体的権利関係の存否に関する事項は含まれないというべきである。
したがって、原告の本件訴えにおける各請求には、同項は適用されないから、前記一4の事実にもかかわらず、本件訴えは適法である。
2 被告の主張
まず、原告の本件訴えにおける主位的請求は、本件保険契約の解約に基づく解約還付金の請求であるから、簡易生命保険八八条一項にいう「簡易生命保険の契約上の権利義務に関する事項」についての民事訴訟に該当する。
また、原告の本件訴えにおける予備的請求も、結局は、本件保険契約が有効に存続しているのかどうかが争われているのであるから、同項にいう「簡易生命保険の契約上の権利義務に関する事項」についての民事訴訟に該当する。
したがって、原告の各請求には、同項が適用されるから、前記一4の事実を考慮すると、本件訴えは不適法である。
第三争点に対する判断
一 簡易生命保険八八条一項は、保険契約者等が、「簡易生命保険の契約上の権利義務に関する事項」について国を被告とする民事訴訟を提起するには、簡易生命保険審査会の審査を経なければならないと定めるところ、原告が簡易生命保険の契約者であることは、前記第二の一1のとおりであるし、本件訴えが国を被告とする民事訴訟であることも明らかである。また、原告が、主位的請求及び予備的請求の双方について、簡易生命保険審査会の審査を経ていないことも、前記第二の一4のとおりである。
二 そこで、原告の本件訴えにおける主位的請求及び予備的請求が、同項にいう「簡易生命保険の契約上の権利義務に関する事項」についてのものであるかどうかについて検討する。
ところで、同項にいう「簡易生命保険の契約上の権利義務に関する事項」とは、簡易生命保険契約の成立又は効力に関する事項を意味すると解すべきところ、まず、原告の本件訴えにおける主位的請求は、前記第二の一のとおり、本件保険契約の解約に基づく解約還付金の支払請求であるから、これは、「簡易生命保険の契約上の権利義務に関する事項」についての民事訴訟に当たるものと解すべきである。
また、原告の本件訴えにおける予備的請求は、前記第二の一のとおり、被告の職員の注意義務違反による柳生三好に対する解約還付金等の支払を不法行為とする民法七〇九条及び七一五条に基づく損害賠償請求であるところ、簡易生命保険法八三条は、還付金等を同法及び保険約款に定める手続によって支払ったときは、その支払は、有効とするものと定めており、本件において、前記第二の一2のとおり、被告の職員が柳生三好に対してした解約還付金等の支払が、同条の規定によって支払が有効とされる場合には、それとは別に、被告が原告に対して不法行為に基づく損害賠償義務を負うとすると、同条が支払を有効とする旨を定めた趣旨が失われてしまうから、右のような場合には、被告は不法行為に基づく損害賠償義務を負うことはないと解すべきである。そうすると、原告の本件訴えにおける予備的請求についても、結局、本件において、前記第二の一2のとおり、被告の職員が柳生三好に対してした解約還付金等の支払が、同条の要件を充足するかどうかという点を審理することにならざるを得ず、このような請求は、なお、「簡易生命保険の契約上の権利義務に関する事項」についての民事訴訟に当たるものと解すべきである。
したがって、原告の本件訴えにおける主位的請求及び予備的請求は、いずれも、簡易生命保険法八八条一項により、簡易生命保険審査会の審査を経るべきものというべきである。
三 以上の判断によれば、原告の本件訴えは、訴訟要件を欠くものとして、不適法であるといわざるを得ない。
なお、この点、原告は、右のような解釈をすると、国民の裁判を受ける権利が侵害されると主張するが、簡易生命保険審査会の審査を経ることを要求したからといって、原告が右審査を経た後において、裁判所による司法審査の機会がなくなるわけではないことは明らかであるから、原告の右主張は採用することができない。
その他、右判断に反する原告の主張は、採用することができない。
四 よって、原告の本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 長野勝也)